リフォーム・リノベーション専門雑誌「プランドゥリフォーム」に掲載中のコラムのウェブ版です。
何年か前、楢の木でキャビネットを作りました。作ったと言っても、家具の図面を書いて、家具職人さんに寸法通りに組み立ててもらい、扉のガラスはガラス屋さんにカーブを書いた型紙を渡して作ってもらいました。仕上げの磨きと塗装は自分でやってみました。サンドペーパーを取り付けた電動サンダーで、天板や棚板の表面を磨いていきます。最初は100番くらいの粗い番手のサンドペーパーを使い、徐々に150番、180番と細かい番手に変えてくのですが、仕上げの工程で240番のサンドペーパーで磨く頃には、手で触れるとすべすべして気持ちが良く、何度も手のひらですべすべになった板を触っていたことを思い出します。ひと月くらいかかって、楢のキャビネットは完成しました。取っ手は仕事で立ち寄った銀座の金物屋さんで見つけたものを取り付けてもらいました。
最初は明るい黄色がかった茶系色だったキャビネットは、月日が経つにつれ、飴色になってきました。年月と共に、なんとなく貫禄というか重厚感が出てきたような気がします。楢の色や木目は部屋の雰囲気を少し上等な感じにしてくれるように思います。
このキャビネットがきっかけで、その後、我が家は楢の家具が増えてきました。楢は、洋間はもちろん、畳の部屋でも、しっくり馴染むように思います。
木材の世界で楢と言えば、水楢(ミズナラ)です。水楢は日本では北海道から九州に生育します。主な産地は北海道です。昔は、洋家具の材料として人気が高く、海外への輸出も盛んに行われていたそうです。良い楢は、ほとんど伐採され、最近は北海道産の水楢は、かなり少なくなっているそうです。
広葉樹はゆっくりと成長します。特に水楢は成長に時間がかかります。北海道札幌市の水楢は、20年経って幹の太さが人の胸の高さで直径5・8センチになり、30年でやっと直径9センチになったそうです。家具を作るには、その3倍以上の太さは必要で、90年以上の年月がかかることになります。
楢の魅力は、木目にあると思います。木目は、おおらかで頼りがいがある感じがします。特に柾目に現れる虎の模様に似た、虎斑(トラフ)はブナ科の木材に出る独特の杢でとてもきれいです。
楢は硬い木です。硬く傷がつきにくいので、フローリングに向いています。国産材の単層フローリングでは、楢が一番多く生産されています。
楢は黒ずむことがあります。原因は様々ありそうですが、缶やヘアピンを置きっぱなしにすると黒い跡が付くことがあります。黒くなると、元に戻すのは難しいので、特に、濡れたヘアピンなどは置かないように気をつけています。
楢の家具は、落ち着いた雰囲気がしますし、月日と共にだんだんとアンティーク家具のようになる気がします。楢は硬くて丈夫です。大切に使えば孫子の代まで使えます。世代がかわり、持ち主がかわっても、誰かに使っていて欲しい……そんな事を思いながら大切に使っています。
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