リフォーム・リノベーション専門雑誌「プランドゥリフォーム」に掲載中のコラムのウェブ版です。
豊平川にほど近い、札幌市豊平区5条周辺は、昭和40年代まで、札幌一の木材の街でした。当時、定山渓から鉄道が通っており、定山渓の木材が豊平に運ばれました。現在、駅舎があった場所は、マンションが建ち、住宅街になっていますが、当時は、木工所や木材店が建ち並び、賑わっていたそうです。鉄道駅舎跡地から、数百メートル離れた、豊平小学校のそばに、昭和45年ごろのビルのまま、現在も営業している河野銘木店があります。社名の通り、茶室や和室に使う、銘木を扱ってきました。現在も茶室、和室の設計や施工の依頼を請け負っています。事務所に併設した店舗「木心庵」は、北側の道路に面して入口があります。めずらしい木製の大きな引き戸で、高さ約3メートル。巨大な引き戸ですが、片手でも開ける事ができます。上を見上げると、数寄屋造りのひさし。ひさしを支える柱は、京都の銘木、北山杉を使い、足元は、天然の石(根石)の丸みに沿うように、柱を削り、張り付くように石の上に木の柱がのっています。
店内は、木の香りが漂い、外からの印象とは違う雰囲気です。壁一面に、巨木の一枚板が並んでいる空間は、まるで木材の博物館のようです。店は、奥へとつながり、カウンターやテーブル天板に使われる、一枚板や耳付材が所狭しと並んでいます。ここで作られる家具などのほとんどは、オーダーメイドです。
要望に沿って、木を選び、工房で製作します。塗料は自然原料のオイル塗装で、極力、天然の素材を使います。伝統的な技法を取り入れた、手作業による造りで、長く使えるシンプルなデザインが多いのも特徴です。木を選ぶことから始めるオーダーメイドは、めずらしいスタイルですが、木は、木目の表情ひとつとっても、全て違うので、目利きのスタッフが、大量の木材の中から、一枚の木を選んでいます。無垢材と40年以上、向き合ってきた河野美宏社長は、原木を選び、製材、乾燥、デザイン、設計に至るまで行い、木という素材を、最大限に活かすモノづくりに取り組んでいます。「木の本来の美しさは、シンプルさの中にあって、それがモダンでもあるのです。手を加えるにしても、見えない部分に手をかけるようにしています。」と、語る河野社長が、新たに追求した素材があります。ひとつは、木の割れた部分に錫を埋めて、ひとつひとつ違う、木の表情を引き出した、スズシリーズ。自然素材らしさを、異素材を組み合わせる事で、より印象を深めました。
スズシリーズは、木の耐熱温度と、錫が溶ける温度の調節が難しく、試行錯誤して完成した技法で、簡単には真似できるものではないといいます。もうひとつは、屋久杉のレンコン材という、穴のあいた杉材などと、アクリルを組み合わせた、アクアシリーズ。透明度の高い、水族館の水槽に使われるアクリルを使い、自然に出来た穴を埋めたものです。ドアやテーブル、カウンター天板に使われます。木の穴に、数回に分けて、アクリルを流し、固まった表面を、丁寧に磨いて仕上げる技術は、固まるタイミングや仕上げ磨きなど、細かい部分に、神経を使います。
茶室や和室など、伝統的な建築や技法を継承しつつ、新しいモノづくりに挑む木の店。河野銘木店は、豊平の歴史や時代の流れに混ざり合いながら、新しいモノづくりが生まれる場所でもあるのです。
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