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夏の暑さが残る時期から除雪機の広告が入る北海道では、9月末にもなると旭岳の初冠雪がニュースになる。「2週間前までは網戸で寝ていたのに、もう冬かあ」短い夏が終わり、さらに短い秋があっという間に終わる北海道。秋の短さに、道産子の多くはがっかりする。

そして、朝晩の冷え込みを迎えると、いつからストーブを使うかに悩み、「いまからストーブの世話になったら、負けだ」といってみたり、「点火確認だけはしておこう」と冷静なことを考えてみたり、「もうストーブは必須でしょう!」と思いきり冬モードに入ったりする。

長い冬を思い、ちょっと憂鬱になる一方で、秋の味覚の到来は大歓迎なのが道産子である。代表格のサケやサンマだけではない。秋シャコやホッケやシシャモも秋から旬を迎える。アブラコ(アイナメ)や宗八ガレイなども美味しくなる。急に寒くなるのは歓迎できないが、秋が深まることは悪いことばかりではないのだ。
 
10月半ば、雪虫が舞ってから2週間もすると、北海道の平地にも初雪が降る。遅い年でも文化の日あたりには、雪が舞い降りる。「いよいよだなあ」本格的な冬の到来を感じる道産子は、遅れをとった!と焦って、急いで冬タイヤに履き替え、冬靴を出し、厚手のコートをいつから着るかを考え始めるのだ。

この時期、大通公園あたりでダウンジャケットを着ている人は、ほぼ間違いなく道外からの観光客。道産子は真冬でも、街中ではまずダウンは着ない。着るとしたら、薄手のダウンくらいのもので、内地の人が着てくるような分厚いダウンを着るのは、雪深い地方に遊びに行ったり、キャンプをしたり、釣りをするときくらいだろう。家ではストーブをガンガン炊き、ヒーターの効いた車で移動する道民は、案外薄着でいることが多いのだ。

ここ十数年は、根雪になる時期が遅くなった。札幌では12月中旬になる年もあるくらいに根雪が遅れている。昔は11月半ば根雪になることも珍しくなかったというか、当たり前だった。子供のころは「雪がクリスマスに 間に合った」的なご時世になるとは思ってもみなかった。

師走には、朝起きたら窓の外一面が白い雪で覆わていた。玄関を出て学校に向かって歩き出すと、「雪の匂い」がしてくる。どんな匂いか説明しろといわれても。「雪の匂い」としかいえない、あの独特の匂いは、雪国の人ならわかってくれるはず。故郷を離れても忘れられるものではない。


石狩鍋の季節から、かじか汁や鱈が入ったよせ鍋の季節に移り変わる。函館あたりではゴッコ汁だろうか。子供のころの我が家では、まず湯豆腐が頻繁に出始める。お湯を張った鍋の中央に大きな湯飲み茶椀を置く。その湯飲み茶椀には、昆布や出汁を入れて煮つめたみりん入りの醤油だれとネギと鰹節が入っている。味ぽんのようなぽん酢醤油ではないので、酸味は利いていない。



温まった豆腐をすくい取り、しばし中に入れ、熱々の豆腐を熱々のたれを纏わせて食べるのだ。湯豆腐の次にくる鍋物は寄せ鍋。小さなころの寄せ鍋は、鍋の汁にしっかり目の味がついていて、各自、小鉢に薬味や大根おろしや醤油だれを少し出汁にまぜて、鱈などの具材をとって食べていた。出汁と醤油の味で食べていたといっていいだろう。それが我が家でも世間一般と同じように、味ぽんのようなぽん酢醤油(ぽん酢とは、カボス、スダチなどの柑橘果汁を酢に加えた調味料)にとってかわったのだった。

鱈鍋といっても問題がなさそうな寄せ鍋は、寒い冬には頻繁に食卓に上がった。ホロホロと身が取れる鱈は、骨も取りやすく、たべやすい。癖のない味でたれの味を吸収して実に美味しい。けれども、やっぱりタチ(鱈の白子)の魅力には勝てない。プルプルした食感、濃厚な旨味。火が入り過ぎないうちに、たれを付けてがぶり。北海道万歳!である。大人になって、これで一杯やっていた父親の満足気な顔のわけがよくわかった。鱈は鍋が美味しい。でも、焼いてもうまい。特に、わたしは粕漬けが大好きなのだ。

ちょっと味噌を混ぜて塩味を与え、南蛮で辛味を加えた酒粕で1日か2日漬け込んだ鱈を遠火の強火で焼く。ギンダラのような脂はないけれど、粕漬けにすると、真鱈の旨味が増幅されて実に味わい深い。ロウソクボッケやハルボッケと呼ばれるような、まだ成長途中の脂の弱いホッケも、干物にしないのなら、粕漬けにして発酵の力で味を引き上げて食べると美味になることは、料理上手だった母のお陰で知っている。

残念だったのは、秋が旬のシシャモを子供のころは「生」で食べられなかったこと。初めて生で食べたのは15年ほど前のことなのだ。10月から11月の解禁時期だけの限定だが、本場鵡川はもちろん、札幌市内の寿司店や鮮魚を売りにする酒場でもシシャモの刺身や寿司が登場する。これが実に美味しい。なにに似ているとは言い難い。シロギスのようであって風味が違う。濃い旨味ではないのに、じんわりと旨いのだ。強いていうなら、ホッケの刺身と似ているといえるだろうか。味も風味も違うのだが、主張しまくらないけれど、しっかりした個性があり、独特の美味しさがあるという点で似ているといえなくもない。
 


秋の旬で忘れてはいけないのは、牡蠣である。子供のころ、父の晩酌の定番だった牡蠣酢。鍋に入っていた牡蠣。それが幼少期のわたしにとっての牡蠣の食べ方の全てだった。成長するにしたがって焼き牡蠣や蒸し牡蠣が加わり、そこになんとタルタル付きの牡蠣フライというとんでもないメニューが出現。更に、大人になって牡蠣のベーコン巻きという、恐ろしく美味しいものまで加わったのだった。とはいえ、いまは美味しい殻付き牡蠣が手に入ったら、「焼き牡蠣」が一番だと思っている。2ダースくらいペロリといきたい。子供のころできなかった「生食用の牡蠣を半ナマ状態」で、飲むようにガンガン食べたい。


仙せん鳳ぽう趾し、サロマ湖、厚岸、寿都……美味しい産地はたくさんある。北海道の牡蠣は、小さくても甘味があっていい。牡蠣めしには小粒を使って、たくさん入れよう。なんてことを考えたが、現実はむつかしい。我が家には牡蠣で入院した経験のある牡蠣アレルギーと思われる家族がいる。というわけで、牡蠣はいまわたしの晩酌専門の食材となっている。

子供のころ、我が家で父が酢牡蠣を独り占めしていたように。


 

コラム『自治体型車中泊施設を』



定年後の夫婦が軽バンに乗って車中泊をするのが流行りはじめたのはひと昔前のこと。いま、車中泊は年齢層も性別も多岐にわたっている。新婚夫婦が会社や役所をやめて日本一周をしたり、定額で全国宿泊施設に泊まり放題のサブスクも利用して、テレワークしながら車中泊したり、犬を連れて車中泊したり、全国を釣りをしながら車中泊をする、あるいは休日前の夜から車中泊を目的に旅にでる人等々、車中泊層が年々増え続けている。道内だけでなく、本州からも大勢きている。

車中泊をする人のほとんどは、アイドリングしたり、騒いだりもしないのだが、中には道の駅のトイレの洗面台で食器や衣服をあらったりする非常識な人間がいるのは、とても残念なことである。北海道には無料キャンプ場や公営の安いキャンプ場もあり、ここを利用するのが一番いいのだが、いかんせんどこにでもあるわけではない。そこで提案というか、お願いしたい。 キャンプ場の新設に助成金を出していたように、RVパークのような車中泊用の施設作りも支援したり、公営のキャンプ場のように車中泊施設を作っていただけないものだろうか。

駐車スペースに加えテーブルセットを置けるくらいのカーサイトと、きれいなトイレがあれば十分。電源や管理棟のようなものがなくてもいい。北海道には休耕田や耕作放置地もあれば、街道沿いには潰れたドライブインや観光施設、飲食店が放置されている土地がある。車中泊客は地元のスーパーや八百屋、鮮魚店、パン屋。お菓子屋でお金を落としてくれる上に、SNSで観光情報を発信してくれるありがたい存在。そんな人を呼びこまない手はないのである。


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