リフォーム・リノベーション専門雑誌「プランドゥリフォーム」に掲載中のコラムのウェブ版です。
20歳の頃から青春を一緒に過ごしてきた、大きな〝よもぎ柄”の猫が17歳でお空に旅立った。悲しすぎて仕事も手につかず、思い出しては号泣するという俗に言う『ペットロス』にかかり、約5年間という長い月日を過ごしていた。
ある日、「これではいかん」とやっと重い腰をあげてペットショップに向かった。目的は〝よもぎ柄”のリスを買うことだった。また猫を飼っても、あの子よりも可愛がる自信がないわたしには、新たなる猫との暮らしなど想像できなかったから。 「これからは、あの子に似た柄のリスと暮らそう!」と思い立っての行動だった。
田舎育ちのわたしは、昔から猫は拾ってくるものと思っていたので、お店のケージに入って可愛い顔で見つめてくる猫や犬がとても不思議に見えた。そして、2階の小動物コーナーに向かおうとした時にふと目が合ったのが、ケージに入ったチワワの子犬だった。
「抱いてみませんか?」という店員の甘い声も、もともと犬が得意ではなかったわたしにはあまり響いてこなかったが、その時はなんとなくその声にのって近寄ってしまった。
「可愛いですよ~どうぞー」と半強制的に、わたしの胸に子犬を押し付ける店員。生まれて初めての子犬は小さくて、どうしていいかわからずに、その場にしゃがみ込んでしまった。すると、その子犬は抱いているわたしの右脇に顔をグイグイと潜り込ませてくるのだ。
「まぁ~すっかり気に入られましたね~。なんて懐いているんでしょう」と店員の黄色い声に悪い気はしなかったけれど、今日の目的はリスと帰ること! さあ、早くこの子を店員に戻さなければと、しゃがんだまま、ふと周りを見渡すと…数名の店員に加え一般客までが、わたしを扇状に囲んでいるではないか! その数、ざっと7~8人も。そして、口々に「可愛い」「きゃー脇にもぐってるー」と満面の笑顔なのだ!(…なんかマズイ )
やっとの思いで、子犬を抱いて立ち上がったわたしの口から出たのは「この子を連れて帰ります!」という、自分でも思ってもいなかった言葉だった。
あの日からはや13年。いまも元気で頑張っているお兄ちゃんワンコとの出会いは、もしかしたらお店の陰謀だったのではないか? と、いまも時々思い出しては笑えてしまうのである。
作家・エッセイストの千石涼太郎さんのエッセイ
救急救命士で救急医療に従事したのち、カイロプラクティックを学び、開院した経緯をもつ院長が綴る健康コラム
犬との暮らしを綴ったほのぼのコラム
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